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0.39μSv/h→移住権利区? [夜話]

コメント欄にも寄せていただきましたが、「空間線量率が0.39μSv/h以上の地域は、チェルノブイリ事故の場合に照らすと、移住権利区に相当する」・・・というまことしやかな風説があるようです。

ですが、これは、おそらくいくつかの初歩的な勘違いから生まれたものと思われます。

International Advisory Committeeが、1991年の国際会議でまとめた報告書"The International Chernobyl Project -Assessment of Radiological Consequences and Evaluation of Protective Measures-"に、ソビエトが採った放射線防護策に関して、詳しく述べられています。

英語で読めますので、リンクを貼っておきます。概要版詳細版←超長編・・・

このなかで、ソビエトが1990年に導入した移住プログラムについても述べられています。
(1)137Csによる地表汚染が、37~555kBq/m2の地域では、補償として15ルーブル/月。ただし、移住はサポートしない。
(2)137Csによる地表汚染が、555~1480kBq/m2の地域では、補償として30ルーブル/月。また、妊婦と子供は移住させる。その他の人々は、移住を望めばサポートする。
(3)137Csによる地表汚染が、1480Bq/m2~の地域では、全住民を移住させる。
ということです。

上記からすれば「移住権利区」というのは、(2)のグループのことだと考えるのが自然だと思います。ちなみに、柏は、40~50kBq/m2程度ですから、上記では、(1)に相当します。・・・ということは、これに照らせば移住はできませんが、補償は要求できそうですね。ソビエト崩壊直前の15ルーブルの価値がよく分かりませんが(笑)

福島県内でも555kBq/m2を超えるところは、きわめて限られているようです。報道などで見る限り、たとえば浪江町で430kBq/m2くらいのようです。

一方で、185~555kBq/m2は、"periodic control zone"、555~1480kBq/m2は"permanent control zone"、1480Bq/m2~は"closed zone"という別の区分もあります。このグループ分けですと、フクシマ北西方向の高線量地域は"periodic control zone"、柏は対象外です。

一部で誤解が見られるようですが、"periodic control zone"→「移住権利区」という区分けではありません。大体、意味が違いますしね。

さて、上記のように、もともとソビエトのプログラムはセシウム137による地表面の汚染度で、グループ分けされていました。空間線量率ではありません。

では、0.39μSv/hは、どのようにして出てきた数字なのでしょうか?これも、初歩的なミスが疑われます。

セシウム137の空間線量率への寄与率は、2.1×10-3[(μSv/h)/(kBq/m2)]と見積もられています(あくまで理論値で、実際にはバラツキがある)。仮に、185kBq/m2(periodic control zoneの下限)→0.39μSv/hになります。

上記から明らかに、セシウム137のみしか存在しないときの空間線量率が0.39μSv/hと推定されるということで、他の核種は無視されています。チェルノブイリのときは、事故後4年経過して、セシウム134が1/4程度に減衰してからの基準であったことも考えると、これで良かったのかも知れませんが・・・。

今の日本のようにセシウム134の寄与率が無視できない状況では、セシウム134からの寄与を上乗せして考えなくてはいけません。観測データから、セシウム137とセシウム134の放射能は近似的に1:1くらいですから、そこからセシウム134用の5.4×10-3[(μSv/h)/(kBq/m2)]の換算係数で計算して上乗せすると1.3~1.4μSv/h程度ということになります。

というわけで、現状で、1.3~1.4μSv/h程度以上の空間線量率の地域については、"periodic control zone"に該当する可能性があると言うことになります。

さて、ミスだらけで何が何だか分からなくなってきましたが、まとめると、

(1)ソビエトの管理は、地表面のセシウム137汚染度(1990時点)で行ったもので、空間線量率で行ったわけではない。それを空間線量率で議論するのはミスリーディングだし、セシウム137だけで空間線量率換算するのも現状にそぐわない。また、チェルノブイリのときは、事故後4年経過して、セシウム134が1/4程度に減衰してからの基準であったことも考える必要あり。
(2)periodic control zoneは、移住権利区ではない。移住権利(および義務)が発生したのは555kBq/m2以上。これは、現在の日本では、原発に近い非常に狭い領域に限定されていると思われる。
(3)もともとの定義に従って分類すると、柏は、periodic control zoneではないが、補償対象くらいにはなるかも?四年後くらいに、精神的苦痛による慰謝料と除染施工費用を請求してみますか?

ということです。

いずれにしても、「0.39μSv/h→移住権利区」説は、このように複合的な誤解とミスリーディングが重なって生まれた風説と思われます。

そもそも、ソビエトは、事故発生の1986年から1989年までのひばく線量として180mSvまで浴びてもかまわないというような基準値を設定していました。今の日本よりも遙かに緩い基準値です。それに、ソビエトも末期に近くなってきています。それが、「0.39μSv/h→移住権利」などという潔癖かつ懇切丁寧なことをしたはずがないですよね。

このように、常識的に考えて、おかしいなと思う情報については、検証もしないで無闇に拡散することがないようにしたいところです。もちろん安全に関わる情報ですから素早く流したいという考え方もあるでしょうが、それによって、精神的苦痛を被る人がいるということについてもまた気を遣ってもらいたいところです。

ところで、当たり前ですが、私はこのソビエトの基準を良いと思っているわけではありません。もちろん、このようなずさん(?)な管理でも、セシウム137を原因とする放射線関連疾患が増加したという公式の報告はなく、実はセーフであるという考え方があることは知っています。

とはいえ、いくら何でも緩すぎでしょう。それに表面汚染度を基準とするのも良い事かどうか・・・。やはり線量管理すべきだと思います。

たとえばですが、数年後に10mSv/年以上ならば移住選択権、20mSv/年以上ならば移住義務が発生しても良いかなと思います。まあ、本当はコストのこととか、職とかを捨てて住み慣れた土地を離れることのリスクとかも含めて考えないと行けないので、軽々しくは言えないのですが・・・。


タグ:放射線量
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コメント 9

たかさん

いつも拝見しております、流山在住の40代です。理系の方ならではの鋭い分析に、いつも関心し、家族の生活の参考にさせていただいています。私も、この「チェルノブイリの移住権利区線量」については疑問に思い、いくつかの資料をみてみたところ、どうやら事故後4〜5年後の措置だったことにいきあたりました。最近、私と同じように子供を持ち育てている人たちの不安の声が大きくなっています。その不安に拍車をかけるような情報ばかりでなく、御サイトのような科学的根拠に基づいた正しい情報がより多く発信されることを願います。
by たかさん (2011-06-30 13:53) 

poko

いつも水琴さんの冷静な見解に救われています。
最近の柏市ホットスポットを煽り週刊誌やテレビの報道には正直精神的に参っていました。
近隣のホットスポットはハザードマークがつく区域だとか、避難することを勧める専門家の話、長袖長ズボン帽子マスク姿の子供と線量計片手に散歩するママさんの姿が放送されたり…、管理区域だと言われたり、
本当に大丈夫なのか?と不安になっているところでした。
乳児と幼児を持つ身としては心配もありますが、水琴さんのブログを思い出し大丈夫だと言い聞かせています。
煽り報道は見なければいいのだけど見てしまう自分が悪いのかと…
幼稚園に通う子供ですが、毎日お外遊び、これからプール遊び、泥んこ遊びも始まります。
心配ですが幼稚園では行う方向のようで、やらせても大丈夫なのかな…
不安は募るばかりですが、精神的に参らないように、ですよね。
by poko (2011-06-30 23:38) 

水琴

たかさん>

コメントありがとうございます。そのように言っていただけると、励みになります。つたないブログではありますが、おつきあいいただければ幸いです。

by 水琴 (2011-07-01 02:29) 

michi

この問題、いつか水琴さんがブログに書いてくれないかなあと思っていました。
ありがとうございます!(心から感謝!)
Twitterでは、柏を完全にチェルノブイリに当て嵌めて、絶望的なことをつぶやく方が大勢います。
特に4月ごろ、ある団体が講演会をしたことで、ベラルーシの現状と重ね合わせているようです。
EM菌が流行っているのもその関係のようですし。

以前からそれが不思議だったので、私も調べましたところ、京大の今中教授がレポートを出されていました。
「ベラルーシにおける法的取り組みと影響研究の概要」
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Mtk95-J.html

いずれにしても、ネット中心に不確かな情報にも関わらず、あっという間に広まり、
脚色や伝言されていくうちに、端折られた部分だけが独り歩きしてしまった感があります。
それを目にした小さな子供を持つお母さんの精神的苦痛を思うと、いたたまれません。
水琴さんの冷静なブログが、(私を含め)漠然と不安に駆られているお母さん達の支えになっていると思います。

by michi (2011-07-01 10:17) 

水琴

pokoさん>

報道はセンセーショナルな方が、売れ行きは良いですからね。現実的にはまずあり得ないようなことでも、そのことを隠しつつ、「~かもしれない」、「~の可能性がある」・・・と、いくらでも連ねることができますので、相当に怖い話を作ることができます。

一方で、「大したことないでしょう」というのは、ニュースになりませんし、売れません。

自然、こういうときの報道は偏ってしまうものです。

そのうち、飽きてきて落ち着くと思いますので、静観しましょう。

プールは、おそらく問題ありません。これまでの空間線量率および表面汚染密度の観測結果からして、柏付近では、40000~50000Bq/m2くらいのCs-137が降りそそいだと推定されます。ということは、プールの水深を40cmとして、Cs-137が、100Bq/l程度ということになりますから、飲用水の暫定基準を満たします。もちろん、普通はプール開き前に一度水を入れ替え、またプールの壁面や床を洗浄してから使うでしょうから、もっと低くなるはずです。どろんこ遊びについては、「食べない」ことに注意すれば、大丈夫と思います。

by 水琴 (2011-07-01 21:12) 

水琴

michiさん>

コメントありがとうございます。ご参考になれば幸いです。実は、最近、仕事がかなり忙しく、ネットのニュースもほとんど見ていなくて、どういう情報が流れているのか、よく把握できておりませんでした。

今回のトピックもコメント欄に寄せていただいたので、はじめって知ったような有様でした・・・。

来週くらいからは、少し余裕ができると思います(願望?)ので、目にとまったことがあれば、記事にしていこうと思います。

by 水琴 (2011-07-01 21:27) 

まっちゃん

はじめまして。
アクロ(ACRO)による日本の放射能モニタリング結果 (http://www.acro.eu.org/OCJ_jp#9 )によると水琴様の仰っているよりかなりたくさんのセシウムが柏市の土のサンプルからも検出されています。このデータについてのご意見をお聞かせいただけますでしょうか?よろしくお願いいたします。
by まっちゃん (2011-07-02 21:58) 

水琴

まっちゃん さん>

はじめまして。単位の違いに、ご注意ください。私の記事では、kBq/m2(=1000Bq/m2)で表記しています。リンク先の柏市塚崎のデータは、単位をそろえれば、44.48kBq/m2で、私の推定値40~50kBq/m2の範囲にぴったり入っています。

by 水琴 (2011-07-03 01:56) 

まっちゃん

なるほど、分かりました!ありがとうございます。
「(3)もともとの定義に従って分類すると、柏は、periodic control zoneではないが、補償対象くらいにはなるかも?」という地域での実際の健康被害、健康被害の可能性などについては、調査機関や研究機関によっても評価が分かれると理解しています。どれを指針として今後の対策を決めるかは、個人の判断でしょうね。
by まっちゃん (2011-07-05 00:11) 

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